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入学式と制服

第一希望の高校が合格して、さて制服を作らないといけないとなって指定のデパートへ...と考えていたころ、タイミング良く高校の近くにある地元テーラー(紳士服専門)で制服を作ってくれるという噂を聞いた。
母は、「あそこの仕立ては間違いないから行ってみよう」と乗り気で、私はデパートで他の服も見たかったがあっさりOKした。
入学前で忙しい中、母と二人でテーラーに向かいました。
すると「合格発表」間もないというのにショーウィンドウには私が入学する高校の制服がマネキンに着せられて飾られていました。


店に入るとオーナー?と思われる紳士がメージャーを肩からぶら下げて近寄って来ました。
「〇〇高校の制服ですね」...と言って母と私を奥に招き入れ、さっそく採寸すると、「あなたの体形にぴったり合う制服が既に出来ているけど試着してみませんか?」と言うのです。
そして指差す方をみると、あのショーウインドーでマネキンが着ている制服だったのです。


あれよあれよの間に試着室で着替えると大きな鏡の前に立たされました。
「あーやっぱりピッタリでしたねーこれは見本として縫製したものなので造りはしっかりしていますし、サイズは標準に合わせています。まるであなたに合わせたみたいにピッタリですよ。価格はもちろんベンキョウしますから.....」「お帰りの際、すぐにお持ち帰りできますよ」...と勧めました。


母は二つ返事で「お願いします」と言って即決しました。
母にしてみれば早く早く..という急かされた感があって出来れば近くで済ませたいという思いがあったのでしょう。
その制服は高校の合格発表があった翌日にマネキンに着せたということでした。
見本として長く飾っていると日光焼けするので、出来るだけ早くぴったり合う人に買って貰いたいということでした。何分、昔のことで記憶違いもあるかも知れませんが、とにかく母も私も満足したのは確かです。そのあとのマネキンには男子の制服が見本として飾られていました。
今だったらあり得ない話ですが、当時は制服のリサイクルや親戚のお姉さんのお下がりも着ていた時代、新品で丁寧に縫製された一点ものを安く買えたことに二人とも大満足したのは言うまでもありません。
そして、これには続きがあって、後日、一緒に合格した友達にこのことを話すと、制服を見たいと言って我が家に来ました。
ところが彼女と母親はデパートに予約を入れて採寸までした後でした。
出来上がってきた制服は大量生産したような荒い造りで体形に合っていないと言うのです。
服に体を合わせるのか、体に服を合わせるのか、つまり体の線にピッタリ来ないと言ってブツブツ言ってましたが後の祭り、確かに見た目からしていかにも制服でした。


テーラーで造った制服は、私の制服を含めて数着しか世に出ていないということで、その話が友達の間で評判になりました。さすが仕立てが良いテーラーです。
体の線が女性的で綺麗に仕立てられていたのです。身長が伸びたり太ったりした際はお直しまで無料で致しますという特典付きのラッキーガールは私のことです。(笑)


テーラーは高級なイメージでした。いわゆるオーダーメイドですから生地もデザインも基礎がしっかりしている。丁寧に縫われていることは要所要所ではっきりと分かります。
いまは流行りのぶら下がりスーツを何着も買ってオマケが付くご時世、もちろんオーダーメイドしか買わないという方もいるでしょう。
昔は良いものを長く着るのが基本、安物買いの銭失い...にはならないように、見る目は養われていたような気がします。
どちらがいいとかでは無いけれど、流行を取るか高級を取るかを今は選べる時代です。


昔と違って、町の仕立て屋さんは見かけなくなりました。
きちんとした洋裁学校やドレスメーカーを卒業し、洋裁店に弟子入りしたのち、そこで学んで独立する人が多かった時代、生地を見る目、生地の特徴、細心に渡って吟味された一枚ものは買う人だけのためにありました。
あの首から上の無いマネキンに、仮縫いされた白い糸が付いた洋服がウインドーに飾られていた懐かしい光景は、私にとって母との幸せなシーンが蘇る遠い昔の思い出です。


入学式の晴れ姿が見れる日はもうすぐですね。(^^♪

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